あなたが泣くとかわいい

https://estar.jp/_novel_view?w=25315883

エブリスタ」に「あなたが泣くとかわいい」という小説を載せています。

小学三年生の時、合唱団に入っていた。

私は合唱団の先生に猛烈に嫌われていて、だからこそ土曜日の練習には絶対遅刻しちゃだめだ、と数日前から家族を巻き込んで大パニックになっているのに、
当日は必ずと言っていいほど寝坊して、大泉学園駅から半泣きで学校まで走るのがお決まりのパターンだった。

ある日、駅の階段を降りる途中で、サングラスをかけて杖をついた男の人が近寄ってきて、
「私、目が見えないので、助けてもらえますか」
と、言った。

遅刻しちゃう!と焦りながらも、あの年ごろの女子は、
「困っている人は助けてあげなければいけない」
と強く思っているから(マザーテレサ的な女性に憧れていたし)私は自動的にうなずいて、彼の手を握ってあげた。
困っている人を助けて遅刻したと言えば、先生だって許してくれるに違いないという、打算的な考えもあった。

目が見えないはずなのに、彼は、
「あなたの制服の色きれいですね。今日の空と同じ色だ」
と言った。

とにかく私は遅刻が気がかりで、合唱団の先生に怒られるのが怖くて、彼の言葉があまり耳に入らず、曖昧に返事をしながら歩いていた。

彼はその後しばらくすると、

「トイレを手伝ってもらえませんか。おしっこの、お手伝い」

と言い、離すもんかとばかりに私の手をぎゅうっと握ってきたのだった。

そこで私は初めて混乱した。
こいつ、何か違う。やばいやつだ。
どうやってそいつを振り払ったか。その後の記憶が一切ない。

だけどおそらく何とかして逃げたのだろう。

その一連の事件で、私は「ロリコン」という言葉を覚えた。

「それ、この辺で有名なロリコンだよ」
 と、 上級生が笑いながら教えてくれたから。

あれは、ロリコンなんかで済む話なのだろうか。
運が悪かったらどうなっていただろう。
たまに思い出しては、いやな気分になる。
彼が言った妙に詩的な台詞が、今でもずっと耳に残っている。