ほのあかるいエロ

1、

足立区で実家住まいのラッパーY・Jと付き合った理由は、
「HiGH&LOW THE MOVIE」の乱闘シーンにエキストラで出演していると、噂で聞いたから。
Y・Jは、私が初めての女だと言った。それで、私もY・Jが人生初の彼氏だと答えた。
ああ見えて彼は優しく、常に紳士的に振舞ってくれた。

初めてY・Jの家に遊びに行った時、彼のお母さんが自家製麦茶を出してくれた。
お母さんが部屋を出て行ったあともずっと、私たちの間には緊張と困惑と沈黙しかなかったが、
気まずい空気を破ったのは、私の一言だった。

「ねえ、窓から見えるあれって、クリーニング屋さん?」

それが合図かのように、私とY・Jは、彼が子供時代から今日までを過ごした部屋で、激しいセックスをした。
隣の部屋では彼の母親がテレビを観ているというのに。

狭いベッドの上で掴んだのは、自分の足だった。
強く握りしめたのは、Y・Jの腕だった。
見知らぬこの人は誰だろうと顔をのぞき込むと、それが私だった。
裸のままもつれあい、壁を突き破り足立区を全壊し、大地の上で、海の底で、私たちは、転がりつづけた。

そしてひとつの強靭なかたまりとなり、そのうちに爆発した。

2.

山手線内回りの始発7両目に乗り、私はアイフォンのメモ帳に日記をつける。

“今ならはっきりわかる。東京に出て来て良かった! 
あのまま残ってたら、店長と妹に利用されて、こき使われて、一生を終えてた。”

眠っている恋人の膝の上に足を投げ出し、ふと足元を見るとタイツが破れていた。
いつからだろう、電車に乗った時? それとも昨日のレストランからずっと? 

昨日の夜、私は生まれて初めて高級レストランに行ったのだ。
二人の上京記念のお祝いとして。
なんでもいいから、高いものが食べたい気分だった。
渡されたうすい和紙のメニュー表には、シェフの直筆サインが入っていた。
 おいしすぎて味がしないね、と言うと、恋人は「確かにー」と笑った。
(その時のことについては、もっと落ち着いて時間のある時に日記に書くつもりだ)

レストランで牛フィレ肉のポワレを切り分けているとき、勢い余ってフォークを床に落してしまった。フォークは音もたてず、厚い絨毯の上に横たわり、
なぜか私はそのことに、こっそり猛烈に感激したのだった。

駒込駅で乗客が降りていくのを見ながら、私は眠っている恋人の肩に頭を乗せて、
「そういえば私たち、東京で初めてセックスをしたよね」
と、耳元でささやいて、満足した気分になった。

そうして、二十八時間つけっぱなしの、半分溶けたメイク越しに強烈な朝日を浴びながら
私も眠った。